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東と西に離れ座すふたり。嗚呼どうか、世界が平和でありますように。
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『今日と明日はお誕生日』

「ブエナースタールデス!ニホーン、おじゃますんでー。」

「あらスペインさん、こんにちは。」
「あれ、スペインにーちゃん。」
「あれ、なんやイタちゃんとドイツも来てたんかー。」
「スペイン、お前…仕事は…」

「えーあー、やー、ほら誕生日やし!特別特別!」
バシバシとドイツの背を叩いて、あはははとスペインは笑い飛ばした。

「はい、ニホン俺からのプレゼントやー
フェリース クンプレアーニョス!おめでとうなーv」

スペインがうきうきと差し出したのは、ハートの花束だった。
花ではないので花束というのは語弊があるかもしれないが、それは文字通り真赤なハートの花束のようであった。
「おやまぁ、覚えててくださったんですか?綺麗なハートですねぇ」
「あったりまえやーん、可愛いニホンの記念日やろ?」
いいこいいこーとロマーノにするのと同じように日本の頭を撫でるスペイン。
実際の年齢を考えるとする側とされる側が逆の動作なのだが、日本はあまり気にしていないようだ。

「それなぁ、飴ちゃんやねん可愛いやろー?ハートのロリポップー、最近日本にも店出来てんけどなーこれは本場直輸入やでー、俺の愛と一緒にーv」
スペインはにこにこと笑って日本の頬にキスをした。

「あら」「ヴェー」「…」

「てんめぇ何してやがるスペイン!!!!」

出た。
ドイツはイタリアを抱えて部屋の縁側よりに避難している。
なぜ台所にいながらスペインの行動が把握できているのかこの男は。
ドイツは毎度毎度のトルコの反応の良さに溜息をつく。

「えええええええ、なんでトルコおんのー!?」
「日本のめでてぇ日に俺がいねえ訳ねえだろ!茶ぁ入れてたんでぇ!とっとと日本を離しやがれっ!」
両手をワキワキとさせてトルコが、日本を抱き絞めたままのスペインに対峙する。

「いややー!日本離したら絶対殴る気やー!」
「離さねぇなら刺すぞ!」
「それもいややああああああああ!」

阿鼻叫喚である。


「トルコさん?」
「なんでぇ。」
「スペインさんを苛めないでくださいね。」
「苛めてねぇよ。」
「泣いてらっしゃるじゃないですか。」
よしよし、と自分にしがみつくスペインの額をなでなでとして日本は続けた。

「奥の六畳間に置いていた箱、取って来ていただけますか?」
「…今じゃねえとダメなのかぃ」
「はい、今必要なものですから。」
ニコニコと、顔色を変えずに日本がトルコを見つめれば、勝ち目が無いと知っているトルコは早々に白旗をあげた。へいへい、と少し拗ねた口調で言うと奥へと姿を消す。

「に、ニホン、俺この隙に帰るわー」
「あら、駄目ですよお渡しするものがあるんですから、待っててくださらないと。」
ニコと笑って、自分の袖を離さない日本にスペインは「ええぇ、でもトルコ怒っとるやんんんん」と情け無い声をあげてしゃがみこんだ。スペインの袖を握ったままの日本もつられてしゃがみこむ。
「大丈夫ですからいてください、ね?」
ね、と言いながら首を傾げた日本はとても可愛かったので、ついスペインは頷いてしまった。

「おう、持ってきたぜ。」
仮面に不機嫌を貼り付けてトルコが戻ってきた。
「はい、ありがとうございます。」

「ひやあああ」
日本が袖を放してトルコの側にいったので、スペインは慌ててドイツの背にまわりこむ。
「コラ、何をしている」
「トルコのムキムキに勝てるのなんかドイツしかおらんやーん。」
「うん、ドイツのムキムキはすごいよね!」
じたばたどたばたとしている欧州勢を微笑ましく眺めながら、日本はこいこいと手招きをする。
「トルコさん動いちゃダメですよ?」
「わあってらい。」
憮然として、その場に胡坐をかいたトルコを見て安心したのかスペインが四つんばいで日本のもとへ戻ってきた。

「渡すもんってそれなん?ニホン。」
「はい、これですよー。」
ジャーンと口で言いながら日本が差し出したその箱は、日本より手足の長いスペインでもちょっと抱え込んでしまうようなものだった。スペインがおずおずと受け取ってみれば、意外に軽い。

「?なんやろー?」
「お礼と、お祝いです。お誕生日おめでとうございます、スペインさん。」
1日早いですけど、とはにかみながら告げる日本に、スペインはパアアアッとそれは見事な笑顔になった。
「覚えててくれたんやーニホンーv」
「はい、お世話になったスペインさんの大事な日ですもの。」

わーわー嬉しいなーと言いながら箱を開けたスペインは、更に上機嫌でわーわーきゃーきゃーと叫んだ。
「これ、マジ○ガーのグッズとかDVDとか…ええのん?これもろてええのん?」
「グッズは、中古とかが多いので申し訳ないのですけど…」
「ええねんそんなん全然綺麗やでーこれー!もー嬉しいーv」
じたばたじたばたと喜ぶスペインわーわー、とスペインと一緒になって笑うイタリアと、苦笑しながら眺めるドイツ。それを見て、日本はニコニコと笑いながらトルコを振り返る。

「そういうことですから、苛めちゃだめですよ?」
「あー…祝いだってんならまぁ…。」
仕方無いと頭をかきながら、トルコはふふふと笑う日本に尋ねる。

「てかよお、もうちょっとこう…我侭っぽいして欲しい事ぁねーのかよお前は。」
朝から抱えきれぬチューリップの花束を届けてプレゼントに今日一日は何でも我侭きいてやると言ったのに、頼まれた事は客人の為の茶、とスペインを苛めるなのふたつってのはなんともつまらない。強いて言えば先ほどの箱を持ってこい、も数に入るのか。

「だって、一番のお願いはもう叶えて頂いてますもの。これ以上あなたにねだれば…なんだか罰が当たりそうで。」
ね?と言いたげに首をかしげる日本が思いのほか可愛らしく、トルコは頬が熱くなるのを隠すように、しゃーねーなと呟き首をまわす。

「あー菓子焼いてくっから、スペインも食うならいていいぞ」
「え、俺もええん?」
「祝いなんだろ、勘弁してやらぁ。」
「わー、嘘みたいやートルコが優しいー」
「うるせぇ、イヤなら帰れ」

「にーちゃんとトルコ、仲直りしてよかったねーニホン。」
「そもそも喧嘩でもないと思うんだが…」
「そうですね、おふたりともいいこでなによりです。」

記念日の今日に、大事な友達と愛しいひとと過ごせるなんてなんて素敵なんでしょう。
思ったが日本は口にせず、ただにこにこと笑っていた。
それでもポチくんと旧友たちには伝わっているようで、イタリアとドイツに前後から抱きしめられた。
面映くてでも嬉しくて、日本は2人の腕をぎゅうと握り返した。
その様子はとても微笑ましく、スペインはええなードイツお花畑やーんとのたまったが
「嫌がらせかぃお前ら…。」
げんなりとしたトルコの声に、3人は顔を見合わせて爆笑した。

 *   *   *   *   *   

「そーいやトルコやぁ、ドイツとイタリアには妬かへんの?」
「妬いてたらキリがねえんだよ、あのふたりにゃ。」
「へー…意外ー」
「俺ぁ寛容なんでぇ」
「嘘やー、ニホン限定やろー」
「おう、よくわかってんじゃねぇか。」

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装甲悪鬼村正 二〇〇九年一〇月三〇日、物語がはじまる。

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