「あなたの髪にも桃の花を飾りましょうね。」
白く冷たい指が耳に触れた、そっと髪をかきあげて音も無く花飾りを留める。
「よく似合いますよ。」
思った通りですとにこりと笑った年上の優しい人は、大きな手の仮面男に腕を取られて行ってしまった。
彼女とお揃いの花飾りがふわりと揺れる。
久しぶりの再会は、ほんの一瞬。
けれど一瞬はまるで壊れた映画フィルムのように何度も何度も瞼の裏で繰り返され、私は彼女を恋わずにはいられないのだ。
2人きりでお雛様を飾り2人きりであられを食べ、2人きりでお雛様を片付けるのも楽しかった。嗚呼ねえさまがお嫁に行く事がこんなに悲しいなんて知っていたら、絶対にお雛様を片付けたりしなかったのに。
庭の桃の花は昨夜の雨に散ってしまった。
私の髪で、お揃いの花飾りがふわりと揺れている。
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