『エイプリルフールなにそれ美味しいの?』
日差しは穏やかに縁側をあたためぽちくんの毛をよりいっそうふかふかにする。
そのとなりで目を細める日本もぽかぽかとした空気と背を守る温かさに、やがてうとうとと船をこぎだす。
トルコは、ゆらゆら前へ揺れる日本を、横抱きに抱えあやすように撫でながら目を細めた。
「日本さん、奥へ行きやすか?」
「ここがいいです。トルコさんあったかいですから。」
ふるふると首を振り、甘える日本の額に口付けてトルコはおとなしく暖房係に徹する事にした。
なにせ今日の自分は日本の専属ボディーガードなのだ。
世界の馬鹿どもに煩わされるのが難儀だと溜息をつく愛しいひとに、ねだり倒して貰ったお役目だ、何が何でも全うせずにはいられねぇ。
今日はずっとこうして抱きしめて、このひとを世界から遮断してしまうのだ。
家事を手伝い寄り添って鬱陶しいほど側にいても、こうして自分の腕の中に閉じ込めても、今日の日本さんは怒らねえ、困った顔で笑うだけ、頬を染めて笑うだけ。
ああ、やはり俺の神は偉大だ。
嘘をつかない、それだけで、こうして愛しいひとを世界からひとりじめできるのだから。
「にしても、案外静かなもんですねぇ。」
ギリシャの来訪やイギリスとアメリカのちょっかいや、大した事はないだろうがフランスの襲来なんぞを危惧していたが、幸いそんな気配も無い。
「トルコさんのお手ばかり煩わせてはいけませんから、一応予防策をとっておきました。」
日本が目を開けてトルコの顔に手をのばす。
「あなたが私以外のひとを構うの、好きじゃないんです。」
「にほ、…ンム?」
ちゅ、とトルコに口付けて日本はふふふと笑った。
今度は自分からと意気込んで顔を下げたトルコだが、ついと仮面を指で押し返された。
「だめ、夜までお預けです。」
「…あー…そりゃあ嘘、だったりしませんか」
「嘘をつくのは、いけないんでしょう?」
トルコの唇を、細い指ひとつで押さえて日本は反論を封じる。
理屈と口説き文句で本気を出されれば、日本の負けは見えているから。
「夜に私が頑張れるように、今はお昼寝させてくださいな。」
ね?と首をかしげる日本が指を離すと、こらえていたかのように大きく息を吐いた。
「そんな顔見せつけといてお預けたぁ、ひでぇお人だ。」
やれやれと日本を抱えなおすトルコに、ふふと笑いながら抱きしめ返して日本は満足げに目を閉じた。
ぎゅっと日本の方からしがみつかれて、トルコはエイプリルフールってのも案外いいものかもしれない、と考える。お預けも夜には解禁なわけだし、な。
日本にばれないよう声には出さずニヤリと笑うトルコを見上げて、ぽちくんは大きなあくびをひとつ。
日本の春、とてもとても穏やかな午後。
おわり。
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